この事例の依頼主
女性
相談前の状況
夫を亡くした妻が相談に来られました。数日前からの片足首の腫れ、呼吸苦・咳・深呼吸時の胸痛を訴えて受診した40代男性患者につき、心筋梗塞の既往があったため、医師は心エコー等の検査をしましたが、心筋梗塞ではないという除外診断をしたのみで、肺炎との診断で入院させ、経過観察をしていました。その日の深夜、患者はあまりの苦しさに暴れだし、苦しいと叫び声をあげますが、「不穏」状態と判断され、鎮静剤を投与されて経過観察とされていました(実際は、重篤な呼吸不全が生じていました)。その朝、心肺停止となり、亡くなりました。あまりに急な経過だったからか、病理解剖がなされた結果、深部静脈血栓症による肺血栓塞栓症で亡くなったことがわかりました。足首の腫れにつき整形外科を受診したところ、循環器科に行くように言われた。なぜ亡くなるまで肺血栓塞栓症をうたがわなかったのか、と病院の診療に納得がいかない様子でした。
解決への流れ
医療記録を調査したところ、初診時においても肺血栓塞栓症は鑑別にあげるべき疾患ではないかと思われました。また、心エコーの結果、肺血栓塞栓症に特徴的な所見が認められていたことがわかりました。それにもかかわらず、医師は心筋梗塞の除外診断しかしていませんでした。初診時において、遅くとも心エコー実施時において急性肺血栓塞栓症を疑い、すみやかに確定診断に足りる検査と適切な処置をおこなっていれば、肺血栓塞栓症により死亡することを回避できたのではないかと考え、損害賠償請求をしたところ、病院が過失を認める形で訴訟前に和解をすることができました。
肺血栓塞栓症は、足や下腹部の静脈にできた血栓(深部静脈血栓)が肺動脈を詰まらせることにより、死亡ないし重篤な障害が遺る重大な病気です。症状は、呼吸苦や胸痛など、他の病気でもありうるような非典型的なものですが、片足首の腫れ、呼吸苦・咳・胸痛といくつかの症状がセットとなると、疑うべき疾患として挙がってくることになります。肺血栓塞栓症は、経過が急激なため、医師の責任を問うことが難しい(救命可能性が低い、やむをえない合併症とされる)事案も多い疾患かと思います。本件では、初診時から複数の症状の訴えがあったこと、心筋梗塞の鑑別のためとはいえ心エコーがなされ、肺血栓塞栓症に特徴的な所見が認められているにもかかわらずそれを見落としていたこと等を丁寧に指摘し、病院が責任を認める形での和解を勝ち取ることができました。