この事例の依頼主
20代 女性
ご依頼者の女性は、国際線のパイロットである男性と結婚し、東京で暮らしていました。夫は、父親を早くに亡くし、もっぱら母親に育てられたこともあってか、母親とべったりの関係でした。交際期間中から、親を巻き込んでの対立も生じていましたが、ご依頼者の妊娠を機に結婚されました。ご依頼者は、妊娠による体調不良や、出産のために、実家のある関西にしばしば帰省しました。そのことが、夫や義母にとっては気に入らないことの一つでした。もっとも、夫はそれでも、ご依頼者が出産で実家に帰っている間に、一戸建て新居を探すなどしていたので、ご依頼者は、夫と子どもとの3人での生活を楽しみにしていました。ところが、出産後、お宮参りのやり方や日取りなどの連絡をとりあう中で、夫と義母の態度が急変し、突然夫からラインで「離婚したい」というメッセージが送られてきました。さらには、ご依頼者が東京の家に戻ると、夫は不在で、ご依頼者の荷物が乱雑に箱に詰め込まれており、夫から「今日で電気を止めるから、マンションから出て行くように」と告げられ、ご依頼者は、荷物を実家に送り、再び実家に戻らざるを得なくなりました。まだ生まれて2ヶ月の赤ん坊を抱え、夫の酷い仕打ちを受けたご依頼者のお話を聞いたときは、当職もご依頼者とともに憤慨しました。ご依頼者は、もう夫とやり直すことは出来ないという気持ちであったため、ご依頼者と子どもの今後の生活のためにも、きちんと離婚手続きを進めるべく、当職が代理人になりました。
まず、ご依頼者の生活費を確保するために「婚姻費用分担調停」を申立てました。調停の手続きを進めている間に、夫の方も弁護士をたてたため、当職と相手方代理人とで交渉が始まりました。婚姻費用は、夫婦の収入や子どもの数で金額が決まるのが一般的ですが、交渉の結果、一般的な金額よりもかなり高額な金額で、合意をまとめることができました。また、ご依頼者と夫の結婚生活はたった9ヶ月しかなく、しかも夫は高収入とはいえ格別の財産をもっていなかったため、判例の相場からすると、慰謝料も財産分与もほとんど望めないような状況でした。しかし、粘り強い交渉を続けた結果、数百万円の慰謝料と、一般的な金額よりはかなり高額な養育費の支払いについて合意することができました。もちろん、その内容は公正証書にして、もし不払いがあれば夫の給与を差し押さえることができるようにしました。
生後2ヶ月の子を抱えて家を追い出されるという、酷い仕打ちに遭われたご依頼者に同情しました。相手の弁護士から聞く話では、夫にも言い分はあるようですが、出産後、新居まで探しながら、突然、離婚を切り出すというのは、どうみても夫だけの意思とは考えがたいものでした。幸い、夫側に、婚姻費用や養育費、慰謝料を支払える収入があり、またご依頼者にも戻る実家があったので救われましたが、子どもとの面会も求めない夫は子供に対する愛情のかけらもなく、それが子供にとってかわいそうだと思いました。婚姻費用や養育費、慰謝料については一般的な算定基準が存在しますが、個別の事情によっては増額させることも可能です。本件は、幸い、かなり高い金額での支払を夫に約束させることができた事例です。また、比較的短期間での解決を図ることができました。